SSTR2024

SSTR2024 特別企画~能登とライダーをつなぐもの~ 開催レポート

今年元日に発生した令和6年能登半島地震、そして9月21日に発生した能登半島豪雨の発生に苛まれる被災地に対し、犠牲者への鎮魂の祈りを捧げるとともに、SSTRが果たすべき使命を考える大切な機会として、SSTR2024 特別企画「~能登とライダーをつなぐもの~」を、10月13日(日)10:30より羽咋市にあるコスモアイル羽咋で開催しました。

神秘の音色に鎮魂の想いをのせて

暗転の静寂を拓いたのは鼓の音。会場は白紋付をまとった能楽師の大倉正之助さん(重要無形文化財総合指定保持者)による鎮魂の鼓で幕を開けました。

大倉さんの演奏後、SSTR創始者の風間深志はあいさつに立ち、

「元日の地震に加え、9月の豪雨災害。今回のSSTRを開催そのものをどうするかするべきかを考えたこともありました。しかし、私たちは能登に来て直接地元の方々とコミュニケーションをとり、応援に駆け付けるということが正しいだろうということで、今回の開催を決定しました。」

と開催までの気持ち語り、参加を決意し、会場に集まった約100人のライダーたちに感謝の気持ちを表しながら、

「災害について、私たちがバイクに乗ること、地域を訪れること、人・自然・地球、そうした広い観点で今回の災害を眺めながら、被災地への思いを寄せていきたいと思います。」

と述べました。

この後は、大倉正之助さんの鼓に、古代楽器演奏家の高橋誠さんも加わり、岩笛と鼓の共演を披露。

岩笛は天然の石に空いた穴に息を吹き込んで演奏するもので、大倉さんは、この岩笛の音色が鼓の音の源流となっているものだと説明し、会場にその神秘的な美しい音色を響かせました。

 被災地の今を知る ~特別ディスカッションを開催~

ここからは、日本ライダーズフォーラムJRF)理事で、SSTRシニアアドバイザーの池田 幸應(いけだ ゆきお)氏をファシリテーター(進行役)を務め、日本赤十字社石川県支部 事務局⻑ 小嶋 正敬(こじま まさのり)氏と、同じく日本赤十字社石川県支部 事業推進課⻑ 富樫 純治(とがし じゅんじ)氏、そしてSSTRローカルアドバイザーの 華岡 一哉(はなおか かずや)氏を迎えたディスカッションを行っていきます。

SSTR
ローカルアドバイザー
華岡 一哉氏
日本赤十字社石川県支部
事業推進課⻑
富樫 純治氏
日本赤十字社石川県支部
事務局⻑

小嶋 正敬氏
一般社団法人
日本ライダーズフォーラム代表 二輪冒険家
風間深志
SSTR
シニアアドバイザー
金沢星稜大学名誉教授
JRF理事
池田 幸應氏

会場MCはフリーアナウンサーの佐竹美希さんが勤めました

必要なのは「人と人との魂のぬくもり」

はじめに、ファシリテーターの池田氏から、SSTRを運営する一般社団法人日本ライダーズフォーラム(JRF)と被災地とのこれまでの関わりについて説明がありました。

池田氏は日本赤十字社石川県支部で被災地支援に携わっており、今回の災害では赤十字の緊急車両で被災地に駆けつけた際、赤十字の一行を見つけたおばあさんが、池田氏に思わず泣いて抱き着いてきたというエピソードを披露。この出来事から池田氏は、

「募金や物資の大切だけれども、やはり被災地に必要なのは人、つまり今は、バイクが行くということではなく、人としてライダーがそこに行くことが大切なのだと痛感した。また、こうした災害に遭っても、私たちは自然と対決するのではなく、どうしたら自然と共存できるかを考えていく必要がある。つまり、私たちが今被災地のためにできることは、彼らと共にある意識をもって応援し続けていくことであり、自然の恵みを上手に活かしていく方法を考えていくこと。その意識を喚起する上で今回のSSTRの開催は意義深いものだ。」

と今回の開催の趣旨を説明しました。

被災地の状況と今後の課題

日本赤十字社石川県支部(以下「日赤」と表記します)小嶋氏から、日赤の活動と地震・豪雨の被災状況について写真と客観的なデーターを交えた説明がありました。

今回の地震で現地では建物の倒壊だけでなく、港や田畑の隆起に伴い、生活・経済の基盤を失った人々が多いことなどが報告され、復旧については下記にような課題があるとして、

・道路が復旧すれば水道などの主幹は復旧するが、個人宅までの配管はその棟の持ち主の負担になるので復旧がままならない。
・解体が必要な建物も現在は32,410棟にも及び、これまで約5,000棟を解体したが、豪雨災害によって解体が難航している。
・既に6,200戸の仮設住宅の建設が完了し、入居も始まっているが、この中には豪雨被害により浸水してしまったことろもある。
・昨年の震災以来、人口の流出が続いている

などが報告されました。

また、豪雨災害では、10月13日現在までに14名の方が亡くなり、1名の方が未だ安否不明、1,300棟を超える住宅に被害があったと被災状況についての説明があり、特に今回は、極めて短い時間で27の河川が氾濫。既に地震で河川に流れ込んだ土砂に含まれた多数の流木が河川をせき止めるなど川の流れを変えたのが特徴で、このことが被害の拡大に繋がったのだというお話でした。

豪雨災害のあった9月21日の朝、小嶋氏は日赤の行事のために輪島に向かっていたそうですが、土砂崩れなどの通行止めに行く手を阻まれ、その後情報も錯綜。その場を引き返し、のと里山空港に設置されている奥能登情勢センターに向かって情報収集にあたり、支援体制を整え翌日より自衛隊や他県の日赤支部と共に支援にあたったのだそうです。

住民と支援者の心のケアが重要

小嶋氏の報告に続いて、日赤の救護班で、D-MAT隊員として現地で活動されている富樫氏から、現地での赤十字の支援の様子について写真による報告がありました。

地震の発災以来、富樫さんは能登全ての市町村を回って巡回診療を行ったほか、避難所の段ボールテントや給水支援システムの設置など環境整備にも携わってこられた方。

避難所運営では物資や衛生の管理などと並んで心のケアが重要になるとして、日赤の「こころのケア班」の活動を報告されました。

「こころのケア班」は被災者への傾聴を行うだけではなく、日赤では自らも被災しながら支援にあたる支援者の心のケアの大切さにも着目し、「支援者支援」としての心のケアを実施しているのだそうで、発災直後のケアはもちろん、仮設住宅が建った後にはゴーヤのサンシェードづくりなど、住民が楽しみながら取り組める活動を提案・実施し、人と人とのつながりを保つ生活環境づくりを進めてこられたことが報告されました。

また、長期化する避難生活においては、「まずは自助から」が原則となるとし、ルールを守り、自ら動くこと、そして平素からも防災備蓄を行い、近所の人とのコミュニケーションを保っておくがポイントであることが説明され、

「能登は住民同士の助け合いがしっかり機能している。地元の力でもう一度立ち上がろうとする地域住民の方々の力強さを感じた。」

と話されていました。

そして9月の豪雨災害においては、流されてきた土の乾燥によって粉塵が舞いやすくなるため、咽頭や肺疾患への医療的ケアの体制を整えたほか、避難所の居住ゾーンに粉塵を入れないよう区分け(ゾーンディフェンス)を行い、感染予防を徹底して行ったことに加え、大きな災害を立て続けに経験した住民に対する直接的な心のケアを行うとともに、引き続き心理的な支援者支援も行っていることが報告されました。

さらに、今後はより多くのボランティアの受け入れも大切なポイントになるとして、「地震で得たノウハウを活かした災害対策本部や避難所のスマートな運営を行っていく」とお話をまとめられました。

「被災していない人」へ伝えたいこと

こうした日赤の現地活動のご報告に続き、最後に輪島市在住のSSTRローカルアドバイザーである 華岡さんが被災者の立場として、地震の発災当時の状況や、今回の豪雨被害における住民の心境、更には”被災しなかった人々”への想いを語られました。

冒頭に華岡さんは、

「1月1日の夕方4時、奥能登の10万人以上の方々が被災しました。私の経験はその中の一つですが、被災者を代表・代弁するというおこがましいことはできないので、私自身がどのようなことを経験したのかや、そこで私自身がどのように感じたのかをお話していくことにします。」

と前置きされた上でお話をはじめられました。

華岡さんは被害の大きかった輪島市門前町の山の中にあるお寺のご住職。地震で一瞬にして住居を失ったうえ、土砂崩れで集落が孤立し、外部に被災状況を伝えることができないまま食料が不足するなど、恐怖を感じたそうです。

地震から半年以上が過ぎ、復興に向け住民たちは力強く立ち上がりますが、ようやく再建の光が見えた矢先、入居も始まった3,000戸の仮設住宅も600戸が浸水。せっかくの仮住まいも住むに住まれず、多くの被災住民が小学校や公民館に逆戻りすることになったうえ、倒壊した自宅から運び出したものや、移動に欠かせない自家用車など、地震で助かったものまで失い、「何か私ら、悪いことでもしたかね」と、住民たちの表情には落胆の色が隠せない状況だといいます。

そんな中でも華岡さんは、

「被災しなかった人々にはどうか本当に幸せに日々を過ごしていてほしい、被災を受けなかった人までもが悲しむ必要はないと考えている」

といいます。

「私たちは今、普段慣れ親しんだ営みを失い、当たり前だと思ってきたものを本当に尊く感じている。なので被災しなかった人には普段の生活を幸せに過ごしながら、当たり前に思っている日常の大切さを見つめなおし、その上で、もしも被災した場合に備えてほしい。そして被災地のことを忘れずに、心の片隅においておいてほしい。そして多くの人にその想いを伝えていただきたい。ボランティアや募金等、いろいろな支援の仕方がありますが、人と人とのつながりを保つこと、それこそが、被災地に勇気を送ることになります。能登のことを忘れないで、そして思い出してください」

と、力強くお話を締めくくられました。

生命の音を響かせて

様々なパネリストの報告に続き、再び古代楽器奏者の高橋誠さんが登場。

オーストラリア先住民族の楽器である「唸り木」と「ディジュリドゥ」の低く唸るような音色にのせ、今生かされている私たちの「命の響き」を風に伝えていきました。

「WITH US(われらと共に)」そのキーフレーズに命を吹き込む今回の特別企画。

今回様々な形で災害と向き合うご登壇者の方々のお話に共通していたのは「人と人とのふれあいこそが大切である」という点でした

今や1万4千人を集めるに至ったツーリングイベントSSTR。

今回の特別企画を通じ、その使命は、これからも人と人とのつながりを保つことであり、

度重なる災害の中でそれは、被災した奥能登の人々に心を寄せ、思いを届けていくことにあると確信しました。

WITH US. 能登を忘れない。

今も、そしてこれからも。


JRFと日本赤十字社(石川県支部)との連携

                         ※不許複製

SSTRを運営する一般社団法人 日本ライダーズフォーラム(JRF)は令和5年より、日本赤十字社石川県支部と連携しており、災害発生時に「災害時支援団体」として現地で活動できるようになりました。

 この連携協力により、モーターサイクルの機動性や、ライダー相互のネットワークを社会に活かしていくJRFの災害支援体制の基盤がより強固なものとなります。

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